といったときには、すでに健二は、となりのベッドでねていました。窓には、冬の夜空の星の氷があちこちに飛んでいました。部屋のかべには、外の枯木の枝が冬の夜空の星明かりにゆれて映っていました。

　とし子は、かべに映った枯木の青白い波を見ながら、そしてヒューキおじさんの歌を聞きながら、いつしかねむってしまいました。窓の外が、黄色くキラッと光りました。

　かべに一枚の写真が映りました。真っ黒いうずがあって、その横にそのうずよりちょっと大きい青白く光る円いものがありました。円いものからは、青い絵の具が流れて、そのうずに吸い込まれ

「わたしが、昨年の十二月、天の川にあるきりんの兄弟のそばを通ったとき写したものです。円く見　えるものが、きりんのあお星です。」

かべの写真が消えて、そのあとに青白い炎のかげが黒くゆらゆらゆれて、そのまわりは、青白く輝いていました。

　窓の外から、ゆっくりと低い声が流れてきました。天の川のカシオピヤ星とべリシウス星の間に、きりん星兄弟がいたのです。この兄弟は、互いに相手の星のまわりを回っている連星でした。兄さんは、真っ赤な光を出していました。そう、あの夏の南の空のさそりの星よりも、もっと赤い光を出していたのです．わたしは、きりんのあか星を見ると、思わず長旅のつかれがとれるような、とても温かい気持ちになったものです。弟の星は、真っ青な光を出して燃えていました。わたしは、あお星を見ると、旅の途中で見た、いやなことが、きれいに洗われる思いがしたものです。

　ところが、この兄弟は、互いに相手のまわりを回っているものだから仲が悪いのです。こんな言い合いをしていました。

いつものあか星なら、いいかえすのに、何もいわずただうつ向いているだけなのです．となりのカシオピヤ姫が、勇者べリシウスのひざの上で泣いていました。わたしは、すぐわかりました。まわり

の星たちも、普段は自分の光を信号のように出したり消したりして、笑ったり、ため息をついたりするのに、そのときにかぎってみんなじっと兄弟を見つめているのです。あお星には、わからなかったのでしょう。

というのです。わたしは、あまりにこれから先が、かわいそうで仕方なかったのですが…。　　　　「兄さん。」

とあお星がいったときです。目の前の景色が真っ赤に変わりました。さそりの星がものすごい速さでとんできたようでした．あか星がいっぺんに光を出したのです。わたしは、まぶたを閉じました。そのあとがこわかったからです。

「悲しんではいけません。右下の青白い星が、オライオンの父さんで、ライゲルです。真ん中に三つ　並んでいる星が、三ツ子の兄弟です。三ツ子もそうですが、まわりの星ほ、ライゲルの子どもたち

「いいえ。オライオンの母さんです。メシアニンといいます．三ツ子の兄弟の左下にいるんです。メ　シアニンのおなかに赤ちゃんがいるでしょう。トラぺシウム四兄弟です。」

　窓の外から再び低い声が流れてきました。べテリゲスは、冬になると子どもをおいて働きにいくのです。わたしと同じように長い旅をしてね。ところが、いつのことか、わたしが、オライオンのそばを通ったとき、べテリゲスの長男ライゲルがうつむいていました。わたしが、不思議に思ってたずねると、

というのです。わたしは、毎日毎日旅をしているので、旅先でさがしてあげることにしたのです。　　その後、再びオライオンのそばを通ったとき、ライゲルもべテリゲスを探しにいっていなかったのです。そのときは、ライゲルは、美しいメシアニンと結婚していました。メシアニンのそばに、三ツ

「わたしの大勢の子どもたちが、これから生まれるわ。この三人の子も、これから生まれるわたしの　子も、ライゲルと祖父を探しに旅立つのよ。」

　それからも、わたしは、何回もオライオンのそばを通りました。メシアニンの子どもたちは、どんどん東へ、西へ、北へ、南へと旅立っていきました。中には、となりのお牛の星までいっている子ど

ももあるのです。あの三ツ子も、今は近くにいますが、だんだんはなればなれになることでしょう。でも、メシアニンは、悲しんではいませんでした。むしろ、今までよりもさらに赤く燃え広がり、子

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ワタシハ　スペスノ　シャシンカヨ

　とし子は、びっくりして目を覚ましました。部屋の中は、何も変わっていません。となりのベッドでは健二が、前と少しも変わらず、ねむっていました。

　部星のかべには、ずうっとむかしのきずが、夜空の星明かりに、かすかに見えます。健二の顔には、夜空の宝石の光が反射しています。とし子は、ベッドから出て窓の所へ行きました。夜空の宝石は、一瞬輝いたようでしたが、相変わらず輝きを競い合っています。とし子には、長い夜でした。どこからともなくヒューキすい星の歌が聞こえてきます。